
高速インタフェース規格 事例紹介
国内の産業機器メーカー(設計部門)
インタフェース規格の高速化が止まらない
接続エラーを解決したのはオシロではなく意外な測定器だった!
インタフェース規格の高速化が進んでいる。
データ伝送速度が5Gビット/秒を超えるものも少なくない。
こうした高速インタフェース規格をクリアするには、デジタル・オシロだけでは不十分だ。
これまで光通信などで使われていた「あの計測器」を使いこなす必要がある。
【2】解決:そんなテストが必要だなんて・・・ |
事例紹介:
【1】背景と問題 この問題を解決したBERTについて:
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今日も、日課である最新エレクトロニクス技術のチェックを、コーヒーを飲みながら進めていたH氏。そのH氏の元に、試作ボードが届いた。丁寧に段ボール箱を開けて、ボードをシールド袋から取り出す。心なしか、ボードが輝いて見える。「これは、良い評価結果が期待できるなぁ」。そうつぶやきながら、テスト・ルームへと向かった。 産業用画像処理機器のメインボードである。テストすべきポイントは山のようにある。一つ一つテストを進めていくH氏。途中、いくつか気になる点があったが、いずれも致命的な問題にはならなそうだ。「結構、調子がいいなぁ」。そして次は、USB 3.0インタフェースの順番である。 USBインタフェースは、メインボードの左端のやや上側に実装されていた。基板端にはUSB 3.0専用コネクタが取り付けられており、そこから20cm程度の信号ラインを介してUSB 3.0トランシーバICにつながっていた。信号ラインは、EMI対策部品やESD保護部品がいくつか実装されている。いずれもH氏の設計通りである。 まずは、USB 3.0の採用に合わせて導入したキーサイト・テクノロジーの広帯域デジタル・オシロスコープと、USB 3.0専用のテスト治具を接続した。トランスミッタのテストに取りかかる。アイタパーンを確認し、ジッタの大きさを測定する。いずれも、標準規格で定められた仕様を十分にクリアしていた。次は、手元にあるいくつかのデバイスやケーブルをつないで、接続互換性をチェックしてみる。すると、ここで問題が発覚した。ある特定の組み合わせで、接続が不安定になるのだ。接続エラーが頻繁に発生する。「どうしてだ」。H氏は、同じテストを何回も繰り返した。しかし、結果は同じ。エラーが発生する。 理由は、二つ考えられた。1つは、USB 3.0トランシーバICの不具合。もう1つは、メインボードに作り込んだ信号ラインと、実装したEMI対策部品/ESD保護部品の影響である。それから、もう1つ気になっていたことがあった。USB 3.0のテスト・マニュアルをまだ熟読していなかったことだ。USB 2.0で十分な経験があったため、目を通しただけで済ませていた。うかつだった。「とりあえず、しっかりマニュアルをチェックしてみよう」。そこには、USB2.0では規定されていなかったビット・エラー・レート(ビット誤り率)を測定することが記載されていた。「やばい。まずビット誤り率を測定しなければならないのか」。 H氏は愕然となった。「ビット誤り率は、デジタル・オシロじゃ測れない。やっぱり、BERT(バート)が必要だよなぁ・・・」。BERTとはビット誤り率テスター(Bit Error Ratio Tester)のことだ。データ伝送速度が極めて高い光通信や有線通信の用途では当たり前に使われている測定器である。しかし、USB 2.0を搭載する電子機器では不要だった。J社は産業機器メーカーである。当然ながら、BERTはなかった。H氏は、駆け足で上司であるT氏の席に向かった。 H氏:「すみませんTさん。実は・・・、USB 3.0のテストにBERTが必要なことが判明しまして・・・」 まさに渡りに船だった。H氏はすぐさま予約を入れて、数日後にキーサイト・テクノロジーに向かった。出迎えてくれたのは、その営業担当者とエンジニアである。CoEは、エントランスのすぐ近くにあった。CoEに招き入れられると、早速3人は、同社最新のBERTである「M8020A J-BERTシリーズ」の前に座った(図1)。DUTを手渡すと、エンジニアはセッティングを始めた。その作業の間、営業担当者は、M8000シリーズの説明をしてくれた。それによると、M8000シリーズは、2014年2月に製品化が発表された最新機種で、8.5Gビット/秒のデータ伝送速度に対応する。しかし、アップグレードが可能で、データ伝送速度は最大で32Gビット/秒まで高められる(図2)。「仮に将来、10Gビット/秒のUSB 3.1を採用することになっても、このBERTで十分にテストできます」という。
セッティングが終わった。早速、テストを開始する。ここで、BERTを使ったテストを簡単に説明しておこう(図3)。 まずはUSB専用のテスト治具を経由して、BERTを試験対象のUSB 3.0ポートに接続する。その後、BERTから、USB 3.0トランシーバICのレシーバ回路に対してテスト信号を送る。USB 3.0トランシーバICの内部では、受信したテスト信号をループバックしてトランスミッタ回路を介してBERTに戻す。伝送路やトランスミッタ回路、レシーバ回路に問題がなければ、送信したテスト回路と、戻ってきたテスト信号は完全に一致するはずだ。しかし、何らかの問題があれば一致しない。これをビット誤り率で評価するのがBERTである。
テスト結果は、予想通り、散々たるものだった。ビット誤り率は10−7と非常に高かった。これでは、正しいデータ伝送は望めない。そこで、M8000シリーズに内蔵されたさまざまな機能を使って、エラーの要因を探っていく。ジッタ条件、振幅条件、ディエンファシス条件などを順次変えて、ビット・エラーの挙動をモニターする。すると、ディエンファシス条件を変えたときにビット・エラーに変化が見られた。 ディエンファシス機能とは、伝送路のロス(損失)によって信号が歪む影響を補正する機能の一つだ。この機能を使ったところ、ビット誤り率は10−9まで小さくなった。しかし、これでも目標値である「10−12」には遠い。ここで、M8000シリーズのイコライザ機能をオンにした。この機能は、試験デバイスからのループバック信号に対して、伝送ロス歪みをBERT側のアナライザが補正するというもの。この機能をオンにしたところ、ビット誤り率はエラー・フリーになった。 H氏の設計に、何らかの問題があることは明白だった。それが何なのか。キーサイト・テクノロジーのエンジニアの見立てはこうだった。「恐らく、プリント基板上の信号配線、もしくはEMI/ESD対策部品に問題がありますね。ディエンファシス機能やイコライザ機能がビット・エラーの挙動に大きく関与しているということは、ボード上の伝送ロスのストレスが大きい可能性が高いです」。H氏もほぼ同意見だった。 「自分の設計に問題がある」と突きつけられたH氏。しかし、自宅に戻る電車の中では、意外にもサバサバしていた。問題点が分かれば、後は作業するだけだからだ。「後は、時間が解決してくれるだろう」。そうつぶやいて、缶ビールを飲み干した。 翌日、H氏は会社に着いて、いつものように日課をこなした後に、設計の見直しに着手した。信号配線は、極力短くなるように、USB3.0専用コネクタの取り付け場所や、ICの配置場所を見直した。EMI/ESD対策部品については、端子間容量が極力小さい製品を探し、採用することにした。端子間容量が大きいと高周波信号成分が通過できなくなり、信号波形が大きく鈍ってしまうからだ。シミュレーションで確認したところ、信号波形の歪みは、大きく改善されていた。 できることはやった。数週間後、設計を改良した試作ボードがH氏の元に届いた。J社でできるテストはすべて実施し、キーサイト・テクノロジーに連絡を取り、COEを再び訪問した。今回も、前回と同じエンジニアがテストをサポートしてくれた。結果は・・・、上々だった。ビット誤り率は10−12をクリア。USB 3.0規格を満足することができた。当初問題が生じていたケーブルとデバイスの組み合わせでも、新しい設計では問題なくつながることが確認された。H氏は、「これで一安心。上司のT氏に、良い報告ができる」と胸をなで下ろした。 J社に戻ったH氏は、産業用画像処理装置のメインボードの開発が終わったことをT氏に報告した。「ご心配をお掛けしましたが、USB 3.0規格もばっちりクリアできました」。するとT氏は、「もう1つ言うことがあるんじゃないか」とH氏に尋ねる。「えっ、何のことですか」とH氏。「BERTだよ、BERT。これからも必要なんだろ。今期は予算がないが、来期の予算は確保しておいた。購入の手続きもしておいたから、十分に使いこなしてくれよ」とT氏は言って、H氏に向かって微笑んだ。 ※PCI-SIG®, PCIe® and the PCI Express® are US registered trademarks and/or service marks of PCI-SIG. |
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事例紹介:
【1】背景と問題 この問題を解決したBERTについて:
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