
高速インタフェース規格 事例紹介
国内の産業機器メーカー(設計部門)
インタフェース規格の高速化が止まらない
接続エラーを解決したのはオシロではなく意外な測定器だった!
インタフェース規格の高速化が進んでいる。
データ伝送速度が5Gビット/秒を超えるものも少なくない。
こうした高速インタフェース規格をクリアするには、デジタル・オシロだけでは不十分だ。
これまで光通信などで使われていた「あの計測器」を使いこなす必要がある。
【1】背景と問題 |
事例紹介:
【1】背景と問題 この問題を解決したBERTについて:
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パソコンと、その周辺機器を接続するインタフェースの高速化はとどまるところを知らない。その代表的な存在がUSBである(表1)。2008年に標準化された「USB
3.0」のデータ伝送速度は、既存規格「USB
2.0」の約10倍に当たる5Gビット/秒に引き上げられた。そして、そのわずか5年後の2013年8月には「USB
3.1」が策定され、さらに2倍の10Gビット/秒に高められた。このほかPCI
Express®や、SATA、HDMIなどのインタフェース技術/規格でも、データ伝送速度の引き上げが精力的に続けられている。
こうしたインタフェース技術/規格の高速化は、パソコンとその周辺機器に限定された動きではない。世界全体のパソコン生産台数は極めて多い。このため、それに使われる電子部品のコストは、比較的低く抑えられている。パソコンでなくても、こうした電子部品を流用すれば、高い性能を比較的低いコストで実現できる。このため、パソコンで使われ始めた高速インタフェース技術/規格は、民生機器に広がり、さらには車載機器や産業機器、医療機器などにも浸透して行く。 インタフェース規格の高速化は、ユーザーにとって大きなメリットである。画像や映像、音声などの大容量データ・ファイルを従来よりも短時間で転送できるようになるからだ。ユーザーにとってはうれしい限りだ。しかし、である。電子機器の設計者にとっては、決して「うれしい」ことばかりではない。設計の難易度が大幅に高まるからだ。 なぜ、難しくなるのか。理由は大きく分けて2つある。1つは、高速化の直接的な影響である。 例えば、何の変哲もない信号ラインも、高周波のデータ信号にとってはローパス・フィルタとして働く。レイアウト設計を最適化しないとデータ信号波形を歪ませてしまう。さらにEMI(放射電磁雑音)やESD(静電気放電)の対策部品についても、最適な製品を選択しないと信号波形が大きく乱れる原因となる。 もう1つの理由は、オープンな標準規格であることだ。標準規格であるため、接続されるデバイス/装置は選べない。粗悪なものが接続される可能性もある。そうした環境の中で、できる限り多くのデバイス/装置との相互接続性を確保するには、標準規格で定められた仕様を順守する必要がある。この作業は、決して簡単ではない。仕様を十分に理解し、最適なテストを実施しなければならないからだ。 高速インタフェース技術/規格であるUSB 3.0は、パソコンやその周辺機器で本格的な採用が始まっている。その分野の設計者は、難しい設計課題をすでにクリアしたようだ。しかし、これからUSB 3.0を新たな採用する車載機器や産業機器などの設計者にとっては、まったくの未知の領域である。鬼が出るか、蛇が出るか。産業機器を手がける国内メーカーに勤務する中堅設計者が、その領域に足を踏み入れようとしていた。 USB 3.0の採用を迫られる H氏は、国内の産業機器メーカーJ社で働く中堅の設計者である。出勤して毎朝、最初にやることは決まっている。それは、パソコンを立ち上げて、米国のエレクトロニクス技術情報サイトをチェックすることだ。「USB 3.1に対応した新コネクタの形状が決まったのか。表と裏に関係なく挿せるんだ。へぇ〜。それにしても技術の進化は速いね。うちは、これからUSB 3.0にチャレンジするって言うのに・・・」。H氏は、少し嘲笑気味に笑って、落としたてのコーヒーをカップに注ぎに席を立った。 H氏は、決して優秀な設計者ではなかった。自分自身では、「ごくごく平均点の設計者」だと思っている。しかし、エレクトロニクス技術は大好きだった。自宅では、電子工作にはまっていたし、唯一の趣味はオーディオである。毎日、通勤電車の中では、iPhone 5Sを自作のポタアン(ポータブル・アンプ)につないで音楽を楽しんでいた。最先端のエレクトロニクス技術にも大いに興味があった。そのため、エレクトロニクス技術の最新動向をチェックするのが日課になっていたわけだ。 毎朝、コーヒーを飲むのも日課だった。そんなH氏は、昨日の夕刻に開催された会議において、USB 3.0の採用が告げられたことを思い出していた。最先端技術に詳しいH氏だ。USB 3.0規格の内容はそれなりに理解していた。もちろん、その技術的な難易度の高さも何となく感じていた。そのためか、昨晩から少し憂鬱な気分になり、落ち込み気味だった。ただUSB 3.0とて、インタフェース技術の1つに違いない。USB 2.0では十分の経験がある。「やることは一緒だ」。少し苦いコーヒーを胃に流し込み、おもむろに作業に取りかかった。 H氏が取り組む開発のターゲットは、新しい産業用画像処理装置だった。最近、小型カメラの解像度がどんどん高まっている。新機種では、最新の小型カメラの採用を目玉に仕立て上げた。そのため、周辺機器の設定がすべて見直された。外部記憶装置とのインタフェースも、高解像度の映像データを短時間で転送するためUSB 3.0の採用が決まったのだ。 H氏に任された仕事は、メインボードの回路設計である。ここにUSB 3.0トランシーバICが載る。このICは、半導体メーカーA社のもので、多くのパソコン周辺機器メーカーで採用されている。相互接続性には定評がある製品だ。回路設計には、従来の機種よりも時間がかかった。しかし、納得のいく仕上がりであり、期限ぎりぎりに完成した。 この後の作業の流れは、メインボードのアートワーク設計、ボードの試作、テストとなる。このうち、アートワーク設計と試作は、外部の協力会社に任せるのがJ 社の習わしだった。ただし、アートワーク設計(レイアウト設計)は、USB 3.0にとって極めて重要な作業になる。ここで最適な設計ができなければ、十分な相互接続性を確保できない。そこでH氏は、注意すべき点を列挙した設計仕様書を作成し、さらにシミュレーションでチェックすべきポイントもすべて記載したファイルも完成させた。「これだけやれば大丈夫だろう」。あとは、試作ボードが仕上がってくるのを待つだけだ。H氏はやり遂げた充実感で、晴れ晴れとした気持ちになっていた。 |
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