Keysight 差動プローブ事例紹介

 産業機器メーカー(設計・開発部門)
 差動インタフェースで予想外のトラブルが発生、
 コモンモード・ノイズを侮る事なかれ

電子機器に広く普及する差動インタフェース技術。現在では、かなり馴染み深い技術と言って過言ではないだろう。しかし、侮る事なかれ。高速な伝送路だけに、トラブルの原因となる危険性を秘めている。差動信号は差動プローブで評価すればすべてOKではないことをご存じだろうか?

 

【2】解決:トラブルの原因は、予想外のところに  

産業機器メーカー(設計・開発部門)
差動インタフェースで予想外のトラブルが発生、
コモンモード・ノイズを侮る事なかれ


【1】問題と背景

【2】解決:トラブルの原因は、予想外のところに

【3】この問題を解決したソリューション


この問題を解決した差動プローブについて:

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   数週間後。Y氏が設計したプリント基板の試作品が納品された。製造装置の心臓部を搭載したプリント基板で、USB2.0のインタフェースが初めて採用された。

 試作品に搭載されたICや受動部品を確認し、信号ラインも一つ一つチェックする。設計通りに製造されている。「大丈夫だ」。次に、機能を順番に確認していく。すると、正常に動作しない機能があることに気付いた。「あれ、おかしいな。テストのセッティングを間違えたかな」。セッティングをやり直し、再度テストを行った。しかし、結果は同じだった。正常に動作しない。また誤動作してしまう。

 調査を重ねることで、誤動作にはメモリー・チップが関連していることが明らかになった。そこで、Y氏はメモリー・バスを流れる信号をロジック・アナライザ機能付きオシロスコープで観測してみた。「やはり、そうか」。思った通りである。ロジック・エラーが発生していた。原因はノイズにあるようだ。あるタイミングでノイズが載り、その影響でスレッショルド(しきい値)を超えてしまっている。「なるほど、このノイズの発生源を突き詰めればいいんだな。お安い御用。きっと、こいつが原因だ」。といってY氏は、メモリー・バスの横に配置された差動伝送路を指さした。

当初の予想は大きく外れる

 Y氏が誤動作の原因だとにらんだのは、今回の機種で初めて採用したUSB2.0インタフェースである。USB2.0のデータ伝送速度は480Mビット/秒。従って、動作周波数は240MHzと比較的高い。「恐らく、差動ペアに何らかの理由でズレが生じてしまい、それが原因でノイズが発生し、その影響をメモリー・バスが受けてしまったのだろう」。そう考えた同氏は、差動アクティブ・プローブを作業机の引き出しから取り出し、プラス信号(D+)ラインとマイナス信号(D−)ラインに慎重にプローブ・ヘッドを取り付けて波形を観測した。そしてオシロスコープ上に結果を表示した(図1)。


図1 差動インタフェースを測定した結果
黄色の波形はプラス信号(D+)、緑色の波形はマイナス信号(D−)の測定波形。
これらを引き算した結果がピンク色の波形となる。大きなノイズは載っておらず、きれいな波形が観測された。



 その結果は、Y氏の予想とはまったく異なるものだった。ノイズ成分が見事に打ち消された綺麗な信号波形が表示されていたのだ。それは、幾ばくかのズレも存在しない見事な波形である。「ということは、USB2.0インタフェースには、問題がないということか・・・」。同氏は唖然とし、しばらく作業机から離れることができなかった。

 作業は、暗礁に乗り上げてしまった。ほかにも、原因として考えられることが数点あったが、いずれも測定した結果、「シロ」だと判明した。もう、誤動作の原因として思い当たるフシはない。Y氏は思わず頭を抱えた。そのとき、作業机に歩いて近づいてくるN氏とふと目があった。言葉は交わさなかった。しかし、その目は、「ほら、やっぱりな」と語っているかのようだった。Y氏はN氏に対して、「こうなることを分かっていたんですか」と思わず口に出しそうになった。しかし、それはY氏のプライドが許さなかった。「何としても、自分の力だけで解決してみせる」。その日、Y氏は夜遅くまで作業机と向き合って、プリント基板の試作品との格闘を続けた。

 翌朝は、出勤が少し遅くなった。「昨晩は、ちょっと根を詰めすぎたかな。さぁ、今日中には何とかして誤動作の原因を突き止めなくては。頑張るぞ」。そう気合いを入れて、席に座った。すると、作業机の上に1枚のメモ用紙が置いてあった。表には何も書いていない。Y氏は、いぶかしげにそのメモ用紙をめくり、裏返した。そこには「コモンモード・ノイズ」と書いてあった。「何だこれは。誰かのイタズラか?でも、Nさんの字に似ているなぁ・・・」。そのとき、Y氏の頭に閃光が走った。「あっ、そうか。USB2.0インタフェースのコモンモード・ノイズが誤動作の原因かもしれない」。

 コモンモード・ノイズとは、グラウンド・プレーンや電源プレーンの電位が変動することなどで発生するノイズ成分である。USB2.0インタフェースのプラス信号とマイナス信号を差動プローブで測定し、その差を求めると、コモンモード・ノイズは打ち消されてしまう。従って、Y氏が前日に行ったテストでは、コモンモード・ノイズまでは分からなかったわけだ。

 Y氏の手元には、シングルエンド用アクティブ・プローブが2本あった。これを使えば、コモンモード・ノイズを測定できる。具体的には、シングルエンド・プローブでプラス信号(D+)とマイナス信号(D−)を同時に測定し、両者を足し合わせればよい。

 しかし、作業性が悪い。そもそも2本のシングルエンド・プローブのオシロスコープからプローブ端の電気長がまったく同じだとは限らない。これが異なれば、それによるスキューを補償する作業が必要になる(図2)。決して、簡単な作業ではない。しかも、測定時は2本のシングルエンド・プローブで同時に操作しなければならない。加えて、オシロスコープのパネル操作も必要だ。手が足りず、思うように測定できない。すると、N氏が近づいてきて、作業机に箱を1つ置いた。「これは便利だ。使い終わったら、俺に戻して」。


図2 2本のシングルエンド・プローブの電気長が異なる場合
2本のシングルエンド・プローブの電気長が異なる場合に、プラス信号(D+)とマイナス信号(D−)を測定して、
ディファレンシャル・モードとコモンモードを算出した結果である。
両モードとも波形が乱れており、実際の波形とは大きく食い違っている。
従って、電気長を補償するデスキューという作業が必要になる。


3つのモードを1本で測定できる差動プローブ


 それは、キーサイト・テクノロジーの差動アクティブ・プローブ「N2750A」だった(図3)。特徴は、1本のプローブで3つのモード測定を同時に実行できる点にある(図4)。具体的には、ディファレンシャル・モードの測定と、シングルエンド・モードの測定、コモンモードの測定の3つだ。使い方も簡単である。専用アタッチメントが付属品として用意されており、測定したいラインにはんだ付けで接続すればよい(図5)。もちろん、通常のプローブと同様に、先端の探針を測定したい信号ラインに押し当てるブラウザ・タイプの使い方も可能だ。


図3 3つのモードを測定できる差動アクティブ・プローブ

キーサイト・テクノロジーの差動アクティブ・プローブ「N2750A」。ディファレンシャル(差動)・モード、シングルエンド・モード、コモンモードの3つを測定可能だ。

 


図4 プローブ・ヘッドの構造
「Solder-in tip」と呼ぶ専用アタッチメントを装着した場合の構造。3本の接続端子が用意されており、これをプリント基板上の各ラインにはんだ付けして使用する。

 


図5 使用実例

キーサイト・テクノロジーの差動アクティブ・プローブ「N2750A」を使って実際に測定している様子。専用アタッチメントには「Solder-in tip」を使っている。



 「これなら、簡単に測定できるな」。Y氏はがぜん、やる気になった。やはり、原因は、USB2.0インタフェースにあった。コモンモード・ノイズが載ってしまうことでDC(直流)レベルが揺れて、近くを走るメモリー・バスに影響を及ぼしていたのだ(図6)。


図6 コモンモード・ノイズの測定結果
黄色の波形はプラス信号(D+)、緑色の波形はマイナス信号(D−)の測定波形。
これらを足し算することで得られた結果がピンク色の波形である。これがコモンモード・ノイズに相当する。
高周波のノイズが載っており、これが周辺回路に悪影響を与えたと考えられる。



 原因が分かれば、あとは対策を打つだけだ。比較的簡単なのは、コモンモード・チョークコイルを使う対策手法だ。幸い、コモンモード・チョークコイルを実装するスペースは確保できそうだ。コモンモード・チョークコイル自体も、さまざまな電子部品メーカーがUSB2.0インタフェース向けを製品化している。電子部品メーカーに連絡を入れて、大急ぎでコモンモード・チョークコイルを持ってきてもらった。

 プリント基板の試作品にコモンモード・チョークコイルを実装し、N2750Aを使って測定してみた。DCレベルの揺れは、ほとんど抑えられていた。「これなら誤動作しないはず」。Y氏は再び、機能テストを実行し、誤動作が起こらないことを確認した。「やっと終わった」。これでY氏の設計作業は完了した。

 しかし、気になることが1つだけ残っている。どうして、いつも辛く当たるN氏が助け船を出してくれたのか。その理由がどうしても分からない。でも、N氏に直接、その理由を聞きに行くわけにはいかない。Y氏のプライドが許さないからだ。結局、Y氏は理由を確認することなく、月日は過ぎ去っていった。

 いまもY氏とN氏の関係はそう大きく変わっていない。N氏は現在もなお、Y氏に辛く当たる。しかし、変わったことが1つだけある。Y氏は辛く当たられても、以前のように苦にはならなくなったことだ。「昔よりはちょっと、N氏のことを尊敬できるようになった」。Y氏は、そう感じていた。

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産業機器メーカー(設計・開発部門)
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【2】解決:トラブルの原因は、予想外のところに
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